IRCにて、アイマスで三題噺を書いてみようという流れになった。
振られたお題「だっこちゃん、お寺、みかん」
水瀬伊織は悩んでいた。
親兄弟よりも長く一緒に時を過ごしていたうさちゃんに
不注意でオレンジジュースをぶちまけてしまったのだ。
オレンジ色に渋く染まったうさちゃん、
「うげっ、信じられない〜」
純白のうさぎを愛していた伊織にとって、それはもう美しさの欠片も無い。
見れば見るほど可愛くない。愛していたあのうさちゃんはもう居ない。
そのまま家の物置に放ってしまった。
伊織の心の穴を埋めたのは、進藤の買ってきたダッコちゃんだった。
以前ブームだったころに買ってあったものを持ってきたらしい。
古臭くも、愛らしいそのフォルムにたちまち伊織は夢中になった。
寝ても覚めても、傍らにはダッコちゃん。そこはうさちゃんの居た場所。
ある日、ダッコちゃんの顔にオレンジ色の染みがついていた。
拭いても拭いても、とれない。良く分からない染み。
日を追うごとに、ダッコちゃんの全身にオレンジの斑点が広まる・・・
気味が悪くなり、放置してたうさちゃんをお寺で供養してもらうことに。
しかし、オレンジは止まらない。
ダッコちゃんは、オレンジ色の部分がどんどん腐敗し、もう形をとどめない。
伊織は混乱していた。ぬいぐるみの浮気ってそんなによくないことなの?!
ちゃんと供養してもらったからいいじゃない!なんなのもぅ!
それでもアイドルとしての日々は続く。
オレンジジュースを飲んでひと休みしていたら、不意に腕の染みに気づく。
あの良く見かけた、忌まわしいオレンジ色の染み・・・
体調不良を訴えながらも、彼女は懸命に祈り続けた。「ごめんなさい」と。
アイドル水瀬伊織は、一ヶ月の腕の療養後、そのまま引退してしまった。
最後に収録されたTV番組は、腕に必要以上に包帯を巻いて
引きつった笑顔のままの彼女の姿があった。
その年のお寺の境内では、綺麗なミカンの花が咲いたという噂が流れた。
(所要時間12分)